「えごまあんドーナツ」によって、
人と人を笑顔でつなぐ。
生産者の力になるために、
JAあおばの職員と菓子職人がタッグを組みました。
「JAあおばの直売所「あおばの里みのり館・ほほえみ館」で販売している「えごまあんドーナツ」には、地元で栽培されたえごまの実が使われています。そのドーナツの生みの親は、JAあおばの直売担当を務めながら商品開発にも携わっている水本聡子さんと、人気の米粉ドーナツを作り、81歳の今も現役の菓子職人・加藤勝彦さんの二人。水本さんのアイデアを、加藤さんが形にし、2021年2月に発売開始となりました。同年4月からは「地場もん屋」でも販売されています。お二人にえごまあんドーナツが誕生するまでの経緯や作り方、今度の展望などをお聞きしました。
人気の一口ドーナツに、
えごまをプラス
「あおばの里みのり館・ほほえみ館」には、えごま油、えごまドレッシング、富山えごまシフォンケーキ、富山えごまプリン、えごまソフトクリーム、えごまの実など、JAあおば管内で栽培されたえごまを用いた加工品の数々が並んでいます。そこで働く水本さんと、そこに一口サイズの米粉ドーナツを卸している加藤さんは、えごまあんドーナツに着手する以前は軽く挨拶を交わす程度の関係性でした。
水本さん
JAあおばでは、地元の特産であるえごまの商品開発に力を注いでいます。そこで、えごまを使った新商品を考えていたときに、「あの米粉ドーナツに、えごまを入れたらおいしいかも!」とひらめいたのが、えごまあんドーナツ誕生のきっかけ。すぐ加藤さんにお電話をして事情を説明したら、「楽しそうだね」と言ってもらえたので、すぐ工房に出向きました。直接自宅まで足を運んだのは、そのときが初めてだったんです。
加藤さん
水本さんからお話を聞いて「いい話だな」と思ったので、即決しました。
水本さん
米粉ドーナツはもともと作られているので、それにえごまを入れてもらうだけなら、負担が少ないかもと思ったことも、ご依頼した理由の一つです。でも実際は米粉ではなく小麦粉と混ぜたほうがよいことも作る中でわかりました。長年ドーナツを作り続けている加藤さんと味を追求しました。
加藤さん
中学卒業後すぐ菓子職人の道に進み、40年前からドーナツを作り始めました。当時、特に餡入りドーナツは珍しいこともあって、地元のデパート・大和富山店でも扱ってもらえたんです。15個入りの一口ドーナツに毎日200〜300個の注文があったので、女房と二人で朝早くから夜11時まで作り続けていましたね。米粉ドーナツを作り始めたのは、2015年からです。
水本さん
菓子職人になられたきっかけは、中学生の時に食べた和菓子のおいしさに衝撃を受けたからなんですよね。
加藤さん
そうそう。獅子舞で訪れた家で出された和菓子がおいしくて、和菓子職人として修行を始めました。当時は、ホテルの結婚式場などに上生菓子を納めていましたね。
40歳近くの年の差を軽く超え、一瞬にして意気投合した二人。水本さんのアイデアは、長いキャリアを持つ加藤さんの技によって、実現されることになったのです。
おいしさを引き出すために、
餡はあえて控えめに
えごまあんドーナツづくりに勤しむ加藤さんの毎日は、朝5時頃から始まります。甘い香りが漂う工房内に、バター、卵、砂糖などを入れたボウルと、小麦粉とえごまを入れたボウルを用意してから、仕込み作業がスタート。その2つのボウルを1つにして混ぜていくと、生地がだんだんとえごまの黒色に染まっていきます。
加藤さん
えごまのプチプチ食感を出すためには、どのぐらいの分量を生地に入れたらいいのか、何回も試しました。
水本さん
えごまの実の量も、他の加工品と比べて多めに入っていると思います。私が初めて試食したときは、すでにおいしかったです。
大きな塊となった生地を小さくちぎり、小麦粉を敷いたまな板の上に一つずつ手早く並べていく加藤さん。いずれも約10gと、大きさは均一です。計りがなくても手の感触で重さを判断できる職人の勘と、華麗な手さばきには感動を覚えざるを得ません。
次に、ヘラを使って餡を生地の中に入れながら包んでいきます。餡がするすると生地の中に入っていくかのよう。思わず見入ってしまう神業です。そのうえ、一つひとつの餡の分量もたっぷり。出し惜しみのないおいしさが作られていきます。
水本さん
えごまあんドーナツに使う餡はえごまの味を生かすために、米粉ドーナツより甘さを控えめにして欲しいとお願いしました。
油で揚げ始めるのは、だいたい7時頃から。工房内には、生地が揚がる音と甘い香りが充満していきます。生地は膨らんで少し大きな形に。その揚げたてのドーナツを少し冷まし、ドーナツシュガーをまぶしたら出来上がり。8時頃からパッケージに詰め、「みのり館・ほほえみ館」へ配達に行きます。「地場もん屋」に納める商品は、集荷センターへ。帰ってきてから再び作り始める加藤さんは、「年がら年中ドーナツ作りですね」と微笑みます。
おいしさが、
生産者の力になるように
加藤さんは、御年81歳。これまでの菓子職人としての歩みは、数冊のノートに残されています。昭和47〜48年頃の色褪せた表紙をめくると、上生菓子のイラストがいくつもカラフルに描かれていました。そしてその中の新しい1冊には、その日のえごまあんドーナツの販売数が記されていました。
水本さん
お客様がえごまあんドーナツをレジに持ってこられると、すごく嬉しいですね。初めて買われるのかリピーターの方なのか、すごく気になります(笑)。米粉あんドーナツとえごまあんドーナツのどちらを買おうか迷われている姿を見るのも嬉しいです。
加藤さん
店頭に商品を並べている最中に、「この前これ買っておいしかったから、また買っていくわ」と言われることがあって。すごく嬉しいですね。お客様が待ってくれていること、お客様に喜んでもらえることが、私の生きがいです。ドーナツづくりに苦労はまったくありません。
水本さん
ただ負担が倍になっただけですよね(笑)。
加藤さんと水本さんは、えごまあんドーナツを通じて、冗談も言い合える名コンビになりました。強い信頼関係は、おいしさの質を高めます。だからこそ、発売以来、大ヒット商品であり続けているのかもしれません。
水本さん
実のプチプチ食感が、他にはない魅力だと思っています。コーヒーにもお茶にも合いますし、1回食べるとクセになります。また、お手頃な価格も魅力。お試し用として小分けパックも提供しています。このえごまあんドーナツをもっと多くの人に知ってもらって、「みのり館・ほほえみ館」に足を運んでもらいたいですね。そのために、これからも地道に取り組んでいきたいです。
加藤さん
死ぬまで現役。若い人とは、なかなか仕事できないから幸せですね。今のまま楽しく元気に、ドーナツづくりを続けていけたら最高です。
水本さん
えごまは1つの花から4粒しか実がとれません。そのことを初めて知った時、生産者の方々のご苦労を実感しました。少しでも力になれたらいいなと思っています。加藤さんがえごまを購入することで消費が増え、えごまあんドーナツのファンが増えることでより消費が増え、えごまあんドーナツに関わる皆さんが笑顔になれるような「えごまのwa」が育まれていくといいなと思っています。