富山市えごま6次産業化推進グループの人々を紹介!

話がある、環となる、輪になる。富山えごまの“wa”

vol.3 株式会社石橋 代表取締役 石橋隆二さん

富山えごまの栽培を通じて、
ネパールの産業化に力を注ぐ
「健菜堂」

富山えごまで、
多くの人たちの暮らしを豊かにしたい。


そんな思いを胸に秘め、富山えごまの6次産業化に取り組んでいるのが、農業生産法人「株式会社健菜堂」の代表取締役を務める石橋隆二さんです。
富山市から施設の運営を受託している牛岳温泉植物工場では、温泉熱と太陽光発電、LED照明を利用してえごまの葉を栽培し、大沢野塩地区では露地栽培によってえごまの種を作っています。さらに2016年からはネパールで栽培されたえごまの種を仕入れて、市内の搾油工場で油を絞り、えごま油として販売しています。
富山えごまの6次産業化を通じて、海外の産業振興にも力を注いでいる石橋さんに、現在の取り組みや富山えごまの魅力、今後の展望などをお聞きしました。

大沢野塩地区での露地栽培。石橋社長自らトラクターを運転します。
大沢野塩地区での露地栽培。石橋社長自らトラクターを運転します。

牛岳温泉植物工場で、
地域の元気を育てる

石橋さんは、廃棄物回収処理やビル管理、指定管理業務を行う株式会社石橋の社長を務めています。同社で受託している施設管理のひとつが、牛岳温泉の施設でした。そんな彼が「健菜堂」を設立することになったのは、「牛岳温泉の温泉熱が生かされていないのはもったいない。これを存分に活用して、新しい農産物を栽培できる植物工場を建設できないだろうか」と、富山市に提案したことがきっかけでした。

「新しい農産物を栽培すれば、地域の農業振興につながるのではと思ったんです。すると、富山市ではえごま6次産業化プロジェクトを始めようというときでした。私の知り合いの企業3社にお声がけして、2013年4月に共同で「健菜堂」を設立し、そのプロジェクトに参画したんです」

2014年3月には、えごまの6次産業化拠点として、太陽光発電や温泉熱、LED照明を使った完全人工光型植物工場「牛岳温泉植物工場」が竣工。工場内では、えごまの種が赤紫色をしたLED照明に照らされ、溶液の栄養を吸いながらどんどん成長していきます。こうして、えごまの葉は約50日で収穫されています。

「えごまの葉を水耕栽培しているのは、世界でも稀です。参考例がないため、最初はうまく育ちませんでしたが、試行錯誤の末、ようやくここ2年で生産が安定してきたんです。えごまの葉にとっては、風がストレスとなります。それにより強くなる分、幹も葉も硬くなり、えぐみの成分が増えます。逆に植物工場は無風なので、やわらかくて、えぐみの少ない葉になります。また、天候に左右されないため、常に安定した品質のものを供給できることも大きな利点と言えるでしょう」

工場内でえごまの葉を育てているのは、障がいを持つ人たち。地域の農業振興だけでなく、地域の雇用創出に貢献している点も、「健菜堂」の大きな特徴といえます。

「当初は山田地区のご高齢の方々の雇用の場にしたいと考えていましたが、本当に職につけずに困っている障がい者の方に仕事を提供したいと考え、就労支援A型施設を作って働いてくれる方を募集したんです。就労支援施設にはB型もありますが、あえてA型施設を選んだのは労働賃金を健常者と同じにしたかったからです」

LED照明を使った水耕栽培
LED照明を使った水耕栽培

こだわりの搾油方法で、
おいしいえごま油をつくる

えごまの種は、塩地区での露地栽培によって育てられています。その種からえごま油を作り出すために欠かせないのが、搾油工場。有機JAS認証を取得している工場内には、えごまの種から油を絞る圧搾機や焙煎機、充填機など、さまざまな機械が並んでいます。圧搾機では、1回で8kg分の種を圧搾することが可能。1kgの種から300gの油を摂ることができます。
「搾油の方式には、圧搾と薬剤抽出の2種類があります。薬剤抽出の方が搾油率は高いのですが、舌ざわりが油っぽくなるので、ここでは圧搾を用いています。種の搾りかすにも、栄養成分がいっぱい。粉状にすれば、カレーやうどん、鶏の餌など、いろいろなものに活用できます」

圧をかけて絞る前に、焙煎機を使って低温で25分焙煎することで、風味を高めているのも特徴。香ばしい油は、充填機を使って袋や瓶に詰められ、製品となります。
「私は毎朝コーヒーに入れて飲んでいますし、焙煎しているので、パンにつけて食べても美味しいですよ」

今、えごま油は、「えごま油PREMIUM」「えごま油」という商品名で、富山市中心市街地にある「地場もん屋総本店」やインターネットなどで販売されていますが、やはり多くの人が興味を持つのはその栄養成分といえるでしょう。

「ひまわり油などに含まれるリノール酸の過剰摂取は、アレルギーや動脈硬化を引き起こす原因のひとつと考えられていますが、そのリノール酸を中和できるのが、えごま油に含まれるα-リノレン酸なんです。その脂肪酸が花粉症やアトピーの緩和、血圧低下の効果があると期待されていることは、科学的に実証されています」

えごまの圧搾機。搾りかすも栄養豊富なので活用します。
えごまの圧搾機。搾りかすも栄養豊富なので活用します。

富山市×ネパールの力で、
えごま油の栄養をお届け

ネパールでのえごま産業化に尽力。
ネパールでのえごま産業化に尽力。

えごまの種は露地栽培で作られていますが、2018年は水不足、2019年は収穫直前の台風、2020年は長梅雨と、どうしても収穫量が天候に左右されてしまいます。年々、えごま製品の生産が拡大するにつれて、原材料となるえごまの安定確保が課題になってきました。

「えごまの生産量を拡大するために、富山市の協力をいただいてマレーシアなどで試験栽培を行いましたが、1年草のえごまは四季がないと育たないということが分かりました。候補地を検討した結果、農林水産省のサポートのもと、ネパールでの栽培を拡大し輸入するプロジェクトを開始することになりました。2019年には年間36トンを収穫することができ、今ではネパールの一大産業になりつつあります。また、そのプロジェクトでは、農林水産省が農協のような組織づくりに着手するなど、ネパールの栽培農家の発展に尽力されています」

日本からネパールへの直行便はないため、香港やシンガポールなどアジアの都市を経由して行くのが一般的。すでに石橋さんは、現地に何度も足を運んでいます。

「ネパールのカトマンズから車で6時間ほど離れた地域には、靴を持たず、裸足で暮らしている子どもたちがいます。これまでは自給自足だったこともあって、若者たちは村を出ていってしまいます。そういう場所に新たな産業が生まれたので、すごく喜ばれているんですよ」

ネパールでのえごまの産業化が進む今、石橋さんが力を入れているのは「有機JAS」認証の取得です。その認証の証となる「有機JASマーク」とは、農薬や化学肥料などを使わず、自然界の力で生産された農産物やそれを加工して作られた食品などを表すマークです。

「ネパールでは、機械を入れることのできない段々畑で、現地の人たちが手作業で育てています。これまでに3年にわたり、農薬・化学肥料・除草剤を使わずに、えごまの種を栽培してきました。有機JAS認証を取得できれば、えごま製品の価値がより高まることでしょう。また、懸命に働く彼らにとって、えごまの種が地域の貴重な収入源になればいいなと思っています。これからはネパールの産業振興に力を注いでいきたいですね」

地域の産業を育成するために始まった富山えごまの6次産業化プロジェクトは、今や国際貢献へと発展しています。

プロフィール

石橋隆二さん

石橋隆二さん
いしばし・りゅうじ/株式会社「石橋」の代表取締役。一般廃棄物処理、ビルメンテナンス、衛生・環境改善資材の開発、高齢者福祉、障がい者就労支援、農業などあらゆる分野で、グループ会社「Teamいしばし」とともにさまざまな事業を進めることで、豊かな暮らしの実現を目指している。