富山市えごま6次産業化推進グループの人々を紹介!

話がある、環となる、輪になる。富山えごまの“wa”

富山えごまの自家栽培、自家採種、自家採油をめざして。
富山の人たちの健康を願う、野菜ソムリエ上級プロ。

富山をえごまの産地と
することができるのだろうか。


そんな自らの問いに答えるために、野菜ソムリエ上級プロの田中美弥さんは、富山大学人間発達科学部の附属農場で、富山大学・人間発達科学部の高橋満彦教授や、農場職員の増山照夫さん、そして農場の人たちとともに富山えごまの試験栽培に力を注ぎました。2009年からスタートしたその取り組みに富山市が注目したことが、「6次産業化プロジェクト」を立ち上げることになったきっかけです。
このプロジェクトのいわば立役者といえる田中さん、そして高橋さんや増山さんに、富山えごまとの出会いや試験栽培の取り組み内容、今後の展望などをお聞きしました。また、田中さんのアイデアをメニューに生かしている料理研究家の佐々倉文子さんにもご登場いただきました。

左から増山さん、田中さん、高橋教授

三人の出会いが、
富山えごま試験栽培のきっかけ

富大附属農場で収穫した種類の異なるえごま
富大附属農場で収穫した種類の異なるえごま

田中さんが、高橋さん、増山さんと初めて出会ったのは2007年。富山大学の生涯学習講座の受講生として、附属農場を訪れた時のことでした。徐々に農業に興味を持ち始めた彼女は、日本野菜ソムリエ協会が認定する民間資格「野菜ソムリエ」を取得。次に目指したのが、野菜や果物に関する豊富な知識を生かして社会で活躍する「野菜ソムリエ上級プロ」でした。ただし、この資格を取得するには、自分のビジョンを事業計画書としてまとめ、実行しなければなりません。

田中さん
「事業計画書を作成するにあたって、えごまで富山を元気づけたいと思うようになりました。その思いを高橋さんと増山さんに話したら、「やってごらんなさい。協力しますよ」と背中を押してくださったんです。それがきっかけで、2009年に日本エゴマの会からタネを6種類取り寄せて、試験栽培を始めることになりました」

試験栽培においては、富山えごまの栽培から、収穫、搾油までの一連の作業を全て自分たちの手で行われたそうです。同年5月末頃から種まきや植え付けなどを行い、10月初旬に収穫し、ハウスで乾燥させた後、種を取って洗って再度乾燥させて、11月には、搾油し、えごま油が完成。田中さんとともに取り組んだ高橋さんと増山さんに、当時の思いをお聞きしました。

高橋さん
「富山大学では、ゴマの系統保存(※)を研究しています。えごまは、シソ科ですが同じ種子植物で名前も似ているだけあって、性質が似ているんですよね。しかも、ゴマより軽くて小さく、傷みやすいので、大変なことになるだろうなと思いました(笑)」
※系統保存 富山大学理学部では、日本の在来種を含めて世界中のゴマの遺伝資源(系統)を将来につなぐために種子を保存し、定期的に栽培して更新しており、農場でも協力しています。

増山さん
「えごまは、種が細かくて重量も軽く、ホコリやごみと重さが似ているので、選別しにくい代物なんです」

二人は、えごまの扱いづらさを知りながらも、田中さんの情熱に突き動かされて試験栽培に力を貸しました。

田中さん
「お二人には、栽培のイロハからすべてを教わりました。また、えごまに興味を持たれている方を大勢ご紹介いただきましたね」

試験栽培のスタートから2年を経た頃、富山市や富山経済同友会の方々が見学に来るなど、この取り組みに共感する人や、えごまに興味を持つ人がどんどん増え、えごまの6次産業化へと進んでいったのです。

白えごま。デリケートで傷がつきやすい。
白えごま。デリケートで傷がつきやすい。

手間暇かけて、
富山だけのえごまオイルに

約半年の時間をかけて搾油に至った、富山えごまの試験栽培。特に難しいとされる収穫や選別、濾過などの作業内容は、創意工夫に満ちたものでした。

田中さん
「収穫後の調整は箕(み)(※)を使うという原始的な方法で行い、さらに農場の人たちがピンセットや毛抜きでゴミを取り除いてくださいました」
※箕(み):穀物などの脱穀の際に、殻や塵を取り除くための農具

高橋さん
「最終的には濾過をして製品的なものにしましたが、濾紙に手ぬぐいを使ったり、コーヒーフィルターのようなものを使ったりと、試行錯誤を重ねました」

増山さん
「搾油をするにしても、韓国製の搾油機は高額で手が出せないので、富山大学工学部の実習工場に頼んで搾油機を手作りしてもらい試験的に行いました」

田中さんは、その後、富山市山田地域で栽培が行われるようになったえごまの6次産業化に携わり、「エゴマオイル トヤマッシモ」の企画・開発にも力を注ぎます。

田中さん
「トヤマッシモ」の「マッシモ」は、イタリア語で「最上級」という意味だから、「富山で一番」という意味を込めて「トヤマッシモ」と名付けました。ここまで来ることができたのは、高橋先生と増山さんのおかげです」

高橋さん
「ものになってよかったなと思います。ゴマより、えごまの方が化けてしまいましたね(笑)」

増山さん
「製品化までに大変手間がかかり、うまくいかないことも多い中、富山市に事業を支援していただくことになったのを目の当たりにして、ひとつのことに一生懸命取り組めば、いろいろな人が助けてくれて、ひとつの形ができていくのかなと。田中さんを見ていて、そう思いました」

エゴマオイルは、スーパーマーケットの商品棚にさまざまな種類のオイルとともに並んでいます。価格だけで比較をすると、「高い」という印象を持つ人が多いかもしれません。しかし、その価格は、相当な労力や手間暇による安心安全な価値を金額に置き換えた適正なものなのです。

箕(み)やふるいを使って種だけを残す地道な作業。(写真は2019年“ビタミンM”の皆さんと)
箕(み)やふるいを使って種だけを残す地道な作業。(写真は2019年“ビタミンM”の皆さんと)

自家栽培、自家採種、自家採油で、
もっと元気な富山へ

富大附属農場で自生したえごま。左は佐々倉さん。
富大附属農場で自生したえごま。左は佐々倉さん。

そもそも田中さんが、えごまに興味を持ったのは、えごま油に「α-リノレン酸」という栄養素が含まれていることを知ったのがきっかけでした。α-リノレン酸は、体内では作ることのできない必須脂肪酸で、不足すると皮膚や脳、免疫などに悪影響を及ぼすと言われています。しかし、えごま油なら、1日小さじ1杯分(約4.5g)で1日に必要なα-リノレン酸を摂取することができるのです。

田中さん
「えごまは油だけでなく、葉や実も食べられ、葉を乾燥させてお茶にして飲むこともでき、残渣(ざんさ)を肥料として使うこともできます。しかも、富山で古くから食べられていたことも分かりました。えごまを富山の人にもう一度認識してもらって健康な人が増えていけば、県外の人たちが富山に興味を持ち、経済の活性化にもつながるのではと思ったんです」
えごまによって富山の人たちが健康になるという構想を記した事業計画は、日本野菜ソムリエ協会に認められ、2011年には念願の野菜ソムリエ上級プロに合格。社会貢献に重きを置いた内容が高く評価された証です。

田中さん
「富山の人たちがえごまの魅力に気づいて健康になることが理想。「えごまを食べて良かった」と言われることや、新しいつながりが生まれたことが私の財産です」
その言葉どおり、人の笑顔が田中さんの原動力。えごまを通して知り合った料理研究家で隠れ家カフェ「ふぅ」の店主・佐々倉文子さんは、田中さんのアイデアを反映した「えごまのおむすび」をお店で提供しています。

佐々倉さん
「美弥さんからお話を聞くうちに、えごまの魅力にはまってしまい、2019年からえごまをふんだんに使ったメニューを提供するお店を始めました。えごまのおむすびは、えごまの葉っぱを使ったまんまるのおむすびなんですよ」
多方面にえごまの魅力を発信している田中さんの最終目標は、「自家栽培、自家採種、自家採油」を富山に浸透させることです。

田中さん
「黒えごまの搾油率は約30%、白えごまは約23%と言われ、少量の油しか採れませんが、自分たちで作って自分たちで食べるという機運が高まればいいなと思っています。搾油のできるステーションがあれば、なおいいですね」

食べるだけではないえごまの可能性にも着目し、新しい出会いやつながりが広がっている田中さん。田中さんの情熱やエネルギーが、えごま以上に周りの人たちを元気にしてくれるのかもしれません。

プロフィール

石﨑和生さん

田中美弥さん
たなか・みや/日本野菜ソムリエ協会認定・野菜ソムリエ上級プロ、野菜ソムリエコミュニティ富山代表。石川生まれ、大阪育ち、 1985年に結婚を機に富山へ。野菜ソムリエ上級プロとして新聞やテレビなどへの出演、レシピ提案、食に関する講座・講演、各種団体の出張講師など、多岐にわたる活動を精力的に行っている。「TGC TOYAMA WOMEN AWARD 2019 SDGS部門 受賞」