富山市えごま6次産業化推進グループの人々を紹介!

話がある、環となる、輪になる。富山えごまの“wa”

vol.12 北陸エゴマ品質向上委員会 石坂 直樹さん

富山えごまのブランド力を高める、
「北陸エゴマ品質向上委員会」が発足。

誰もが安心して購入できる、富山えごまへ。

2023年8月、富山えごまの品質をより高めるために「北陸エゴマ品質向上委員会」が発足され、その第一回交流会がサンシップ富山にて開催されました。同委員会の委員長は、滑川市で約19年にわたりエゴマ栽培に取り組んでいる石坂直樹さん。副委員長は、入善町でエゴマ栽培・加工に励んでいる福島めぐみさん。事務局を務めているのは野菜ソムリエ上級プロの田中美弥さんと、富山市でカフェを営んでいるエゴマソムリエの佐々倉文子さん。同委員会は、この4名で構成されています。今回は、交流会の模様をお伝えしながら、同委員会発足のきっかけや品質を高める作業ポイント、そして石坂さん自身の働き方や栽培へのこだわりなどをご紹介します。

収穫後の水分量が、
品質安定の肝

「富山市のエゴマ栽培面積は日本一(平成30年度実績/全国の自治体との比較)となり、エゴマを使った商品が富山駅や富山空港などで取り扱われ、お土産として購入されるようになってきました。富山の魅力的な商品と認知されるのは嬉しいことですが、少し困ったことが起きています」

交流会は、委員長であり発起人である石坂さんの言葉からスタートしました。彼は、エゴマの栽培だけでなく、エゴマ専用の搾油施設を有し、さまざまな方々からの搾油依頼に対応しています。

「品質のばらつき、腐食、酸化がちょっと気になっていまして。少しでも改善して皆さんにいいものを作っていただきたいという思いで、北陸エゴマ品質向上委員会を立ち上げる考えを持ちました。ただ、土壌によって甘みや風味は異なります。それぞれの個性を生かしながら品質の安定化を図れるような、富山独自の品質管理のガイドラインを作りたいと考えています。エゴマを買うなら富山えごまと認知してもらえるよう、皆さんと作業工程や工夫などの情報を交換していきたいと思っています」

石坂委員長のご挨拶。
石坂委員長のご挨拶。

同委員会の考えに対し、エゴマの生産者の方やエゴマの味に惚れた方など、さまざまな参加者が温かい拍手を送りました。続いて田中さん、石坂さん、福島さんが、いろいろな角度からエゴマについて話をしていきます。その流れの中で特に参加者の注目を集めたのが、「エゴマの品質を安定させるには、収穫後にいかに水分を飛ばすかが肝要」という石坂さんのお話でした。

「収穫後にエゴマの水分量を減らさないと、酸化や腐食、カビの原因になります。私がお勧めしている方法は、唐箕やふるいなどで虫やゴミを取ったらすぐに一次乾燥を行うこと。次に、割れや傷物などの不良を選別するために水洗いをします。すると、割れたものは沈み、割れていないものは浮きますので、自然に分別できます。その後、二次乾燥をして袋に入れても蒸れない状態にしてから、ゆっくり時間をかけて選別していきます。エゴマ油へと加工する場合は、二次乾燥の後に水洗いをして、水分量が約6%になるまで乾燥させます。水分量を判断するには自分で食べてみてください。6%になると香ばしさと噛みごたえがあります。そして最終的には4%以下にしなればいけません」と石坂さん。実体験に基づくアドバイスを惜しみなく共有しようとする姿勢が印象的でした。

一人ひとりと話し合い、
みんなでレベルアップ

交流会では、「味比べという貴重な経験を提供したい」という思いで「エゴマ油の試飲会」を実施。テーブルには味の異なる5種のエゴマ油が置かれ、1種ずつスプーンを使って試飲できます。飲みやすさも色の濃さも実にさまざま。皆口々に感想を語り合い、場がより盛り上がっていきました。

用意されたエゴマ油。
用意されたエゴマ油。
飲み比べして、その違いが実感。
飲み比べして、その違いを実感。

質疑応答では、委員会メンバーが参加者の方々と向かい合わせに座ってスタート。すぐさま「品質の基準を設けるのですか?」などの問いが投げかけられました。

「管理方法について基準を設けることになると思います。ただ、人によって作業機や道具の違いがあり、収穫量によって作業時間も異なるため、誰しもが同じ方法を行えるわけではありません。最低限必要な方法をみんなで模索していくことが大切だと思っています。また、エゴマの品質をチェックする中間の機関の方々にも、品質の重要性を共有できたらという思いもあります」

最低限のラインとはどこになるのか。同委員会では、じっくり時間をかけて話し合い、一人ひとりに適した条件に整えていきたいと考えているそうです。そして最後に、今後の予定について石坂さんからお話がありました。

参加者の質疑に、向かい合って応えるメンバー。
参加者の質疑に、向かい合って応えるメンバー。
富山えごま油のの品質向上を熱く語る石坂委員長。
富山えごまの油の品質向上を熱く語る石坂委員長。

「エゴマには食品表示法の食品表示基準に「何%以下の酸価(※)でないと販売できません」という表示がないため、劣化したような魚臭い油でも販売することができます。それを誰かが飲めば、「もう富山えごまは買わない」ということになるでしょう。富山えごまの信用を落とすことは、1番避けたいと思っています。ですから、皆さんの経験談や意見を聞きながら話を進めて管理体制を整え、富山県全体の底上げをしていきたいと考えています。来年2月頃に報告会を兼ねた勉強会や試飲会を開催させていただく予定ですので、いろいろな意見をいただければ嬉しく思います」

同委員会の最終目標は、「エゴマを購入するなら富山えごま」と思ってもらえるようなレベルまで品質を向上させること。新たな挑戦が始まりました。

(※)油脂中の遊離脂肪酸量を示すもので、劣化の基準によく用いられている。

農業×農業のダブルワークの中、
高品質なエゴマ油を提供

交流会の終了後には、石坂さんに自身のお話をお伺いしました。

「自分のアトピー性皮膚炎を少しでも改善したいと思ったことが、エゴマを栽培し始めたきっかけです」。そう話す石坂さんは、農業生産法人社員として、また個人事業主として農業に従事する兼業農家であり、その双方でエゴマ栽培に取り組んでいます。

「平日の8時〜17時までは会社勤めをして、その前後には自分の仕事をしています。会社が休みになる土・日・祝日は、自分の仕事をするというスタイルです。この形態で働いて17年ほどになりますね。搾油は個人で行っているので、夜中にしか油を搾りません(笑)」

石坂さんは自然栽培でエゴマを育てていますが、1番のこだわりは草などの腐食物をできるだけ多く土壌に取り入れること。微生物がそれを分解して、エゴマの肥料になるという循環を大切にしています。肥沃な土壌で健やかに育ったエゴマは自身で搾油し、エゴマ油として販売。1年契約を結ぶ一般のお客様が複数存在していることが、おいしさの証といえるでしょう。

今後は報告会や勉強会を重ねていきたい、と語る委員長。
今後は報告会や勉強会を重ねていきたい、と語る委員長。

「最初は、「道の駅ウェーブパークなめりかわ」でエゴマ油を販売し始めました。すると、県外の方が購入され、配送のご要望をいただくようになりました。その次には、エゴマをもっと知ってもらおうと、軽食喫茶店にお願いして各テーブルの上にサラダのドレッシング用として無償で1年間置かせていただいたんです。そしたら使う方が徐々に増え、「調子がいいから年間を通して使いたい」という声をいただくようになっていきました。これからもノンストップで発想を行動に変えていきたいですね」

石坂さんが望んでいることのひとつは、エゴマ油がオリーブオイルのような存在になることです。

「こだわりのある人は、料理に応じてオリーブオイルの種類を変えているでしょう。それと同じような感覚で、食べ方や使い方に応じてエゴマ油の種類を選んでもらえるようになっていったらいいなという思いがあります。ちなみに、エゴマ油は、豚肉の脂肪の匂いを薄める作用があるんですよ。料理が仕上がった段階でかけるのがおすすめです」

プロフィール

石坂直樹さん

石坂直樹さん
いしさか・なおき/滑川市出身。農業を営む両親の背中を見て育ち、跡を継いだ。「誰かのために安心できる食材を作ること」が信条。21年前には「子どもにきちんとした野菜を食べさせたい」という思いから、施設園芸でほうれん草を作る専業農家へ。約19年前から、農業生産法人社員と個人事業主という二足の草鞋を履く兼業農家になり、エゴマを栽培し続けている。