富山市えごま6次産業化推進グループの人々を紹介!

話がある、環となる、輪になる。富山えごまの“wa”

vol.11 富⼭市農林⽔産部 山口 拓志さん

有機えごまに力を注ぎ、
中山間地域を、そして富山市全体をもっと元気に。

富山えごまを、有機えごまへ。

富山市では、2023年5月に富山市有機農業推進協議会を設立し、有機農業の推進に力を注いでいます。その推進品目としてお米とともに選ばれたのが、富山えごまです。去る7月19日には、JAあおば大沢野営農経済センターにて、JEAエゴママイスター石坂直樹氏を講師に招いて有機えごま栽培研修を実施。その後には、近くにある実証ほ場の見学を行いました。
有機えごまの誕生を目指す今、富山市農林水産部農業水産課の主幹を務める山口拓志さんに、有機農業を推進することになった動機や背景、推進品目にえごまが選ばれた理由、今後の取り組みなどをお聞きしました。

JAあおばでの「有機えごま栽培研修会」の様子。
JAあおばでの「有機えごま栽培研修会」の様子。
無農薬でえごまを育てるJEAエゴママイスターの⽯坂直樹さんの講演。
無農薬でえごまを育てるJEAエゴママイスターの⽯坂直樹さんの講演。

有機JAS認証の取得が
有機えごまの証に

富山市が推進している有機農業とは、どんな農業なのでしょうか。国では、「化学的に合成された肥料及び農薬を使用しないこと、並びに遺伝子組み換え技術を利用しないことを基本として、農業生産に由来する環境への負荷をできる限り低減した農業生産の方法を用いて行われる農業をいう」と定義されています。そして、富山市の有機えごまの定義は、その条件をさらに上回るものとなっています。

「有機JAS認証を取得しない農地で農作物を栽培した場合には、商品パッケージなどに「有機えごま」と記載することができません。また、農林水産物・食品を海外へ輸出するには有機JAS認証を取得していないと信用されにくいとも聞いています。そこで、富山市では、有機JAS認証を取得している農地で栽培・格付けしたえごまだけを「有機えごま」と定義付けました。ただ、これまでに何らかの化学物質を使用していた農地を指定した場合、2年間かけて残農薬成分を抜かなければいけません。そのうえで化学農薬が残っていない土で育てた苗を植えて育て、登録認証機関に申請。数々の検査に合格して初めて有機JASの認証を得られます。また、富山有機えごま油を作るためには、生産段階だけでなく、加工段階でもJAS認証が必要なので、加工場でも取得したいと考えています」

有機JASを認証したえごまを作るために、2年間かけて農地の残農薬成分を抜かなければならない。
有機JASを認証したえごまを作るために、2年間かけて農地の残農薬成分を抜かなければならない。

そもそも富山市が、富山市有機農業推進協議会を設立し、有機えごまの栽培に取り組み始めた背景には、国が日本の食料・農林水産業の生産力向上と持続性の両立を技術革新で実現するための政策として「みどりの食料システム戦略」を策定したことにあります。その戦略の中には2050年までに目指す姿のひとつとして「耕地面積に占める有機農業の取り組み面積の割合を25%(100万ha)に拡大」と記されています。

「有機農業は慣行農業(※注1)より収量が低いことなどから、農林水産部ではこれまであまり積極的に取り組んでいませんでしたが、有機農業を調べる中で、中山間地域で魅力的な経営をされている経営体があることを知り、中山間地域の活性化を図るひとつの方法として着目するようになりました。それが、富山市有機農業推進協議会を設立したきっかけのひとつです。その経営体のお米は、約2倍の価格で取引され、一定のニーズがあります。肥料を自家で賄って生産コストを下げ、最終的には中山間地域で採算が取れる農業を実践されています。有機農業を推進することで、元気な地域を創出し、富山市全体の農業の活性化につなげていきたいと考えています」

(※注1)法律に則って農薬や化学肥料を使用するなど、多くの生産者が実践している一般的な農業のこと。

研修風景

これから始まる
有機えごまの物語

今、JAあおばが管轄する地域では、栽培期間中、化学肥料、農薬を使用せず、えごまが育てられています。この方法はほぼ有機栽培の水準に達していますが、有機JAS認証を取得した有機えごまはまだ存在していません。すべては、これからなのです。

「えごまには適した農薬がほぼなく、逆に有機農業に挑みやすいのではないかと。どなたかお一人が有機JAS認証を取得されたら、一気に広まっていく可能性があると思っています」

富山市では、数年前から富山えごまの収量を増やすために、栽培に必要な機械を導入し、貸し出しを実施。去る7月19日のほ場でも、富山市が購入した機械を使ってえごまの植え付けがなされました。機械の提供は、有機農業の拡大にも貢献していくかもしれません。

研修の後は、実証ほ場における中耕除草の実演が⾏われた。
研修の後は、実証ほ場における中耕除草の実演が⾏われた。

「大抵の野菜は連作障害(※注2)がありますが、えごまは連作障害がないと聞いています。有機JAS認証を取得した農地で、えごまを繰り返し栽培できるとなると非常に魅力的ですね。」

作物の特性としても、有機農業に挑戦しやすいといえるでしょう。そして今のところ、他県で有機えごまを作っているという話があまり聞こえてこないことも好機にあたるのかもしれません。希少性の高さが高付加価値につながる可能性もあります。

「有機JAS認証が取得できれば、展開が変わってくるのではと期待しています。将来的には、有機えごまの商品を海外に売り込みに行きたいですね」

(※注2)特定の作物を同じ場所で続けて栽培することで生育不良になること。

市民の方々の声に耳を傾け、
オーガニックビレッジへ

国では、みどりの食料システム戦略を踏まえ、地域ぐるみで有機農業に取り組む市町村を「オーガニックビレッジ」とし、2050年までに100市町村の創出を目指しています。富山市は、この流れに対応し、今年度「富山市有機農業実施計画」の策定と「オーガニックビレッジ宣言」を行う予定です。

「JAあおばさんや富山市有機農業推進協議会の方々の有機農業への大きな期待感が、有機えごまを推し進める大きな原動力になっているように感じています。これからは、農家さんがどれだけ有機農業に取り組んでいきたいと思われているのか、実際に取り組む際には何が一番支障になるのかなど、直に意見交換できる場を設けたいと思っています。一方、消費者のどれくらいの方が有機農産物を求められているのかも今年度中に聞けるよう、他の課と協議をしています」

たくさんの生の声、人の心に重きを置く山口さん。有機えごまへの熱い思いが伝わってきます。

「今年12月頃には、富山えごま油の提供と飲用モニターアンケートを実施する予定です。富山市体育協会の「中高年健康づくりコース」を受講されている方々に富山えごま油を配布して1ヶ月間毎日飲んでいただき、どんな変化が感じられたか、個人の実感をアンケートに記載いただきます。その結果は協議会で発表する形になると思いますね。また、12月8日の「有機の日」に富山えごまの実を学校給食に使用いただく予定です」

その他にも、先進地視察や有機JAS認定取得勉強会、既存イベントへの出品などさまざまな活動が予定されています。

「有機農業は、中山間地域の活性化、生物の多様性、環境保全、持続可能な社会、商品の付加価値など多様な可能性を秘めています。その農業を推進しながら、生産性の向上を目指す慣行農業とうまく共存させていくことが、富山市農業の最終的な目標です。そうした中で、有機えごまが地域に根付いていくといいなと思っています。皆さんも有機えごまの商品を見かけたら、購入して味わっていただくなど、積極的に関わっていただけたらと思っています」

可能な限り現場に⾜を運び⽣産者とコミュニケーションをとる。
可能な限り現場に⾜を運び⽣産者とコミュニケーションをとる。

プロフィール

山口拓志さん

山口拓志さん
やまぐち・ひろし/富山市農林水産部農業水産課の主幹。農業技師として、富山市有機農業推進協議会でも多様な活動に力を注いでいる。また、環境部の方々と共に6次産業化にも取り組んでいる。数週間前から毎朝牛乳にスプーン1杯のえごま油を入れて飲用し始めた。「肌がしっとりしてきた感覚があります」と現在も継続中。